インタビュー

一橋大学

東京都国立市にメインキャンパスを構える、1985年創立の日本の国立大学。商学、経済学、法学、社会学と社会科学に特化した総合研究大学。「ゼミの一橋」を自負するほど伝統的に少人数教育を重視している。

就職の実績は、2014年3月卒業生(学部生)の内定率は96.3%と、非常に高い水準を誇っている。卒業生とのつながりがきわめて強く、同窓会組織「如水会」は国内外に広範なネットワークをもつ。卒業生には、トヨタ自動車や楽天など、日本経済を代表する新旧のグローバル企業のトップも多数いる。

一橋大学 キャリア支援室 大学院部門 特任講師

三浦美樹 MIKI MIURA

 一橋大学キャリア支援室では、企業等への就職を希望する大学院生の支援をおもに担当。2002年に一橋大学大学院社会学研究科修士課程を修了後、大手人材総合サービス企業であるリクルートに勤務。修士課程に進学した際は研究者を志望していたが、「人事制度や職場環境が労働者の意識・意欲にどのような影響を与えるか」を研究テーマとしていたこともあり、自分自身が企業で働く経験をしてみたいと思い、修士1年次に就職を決意。就職後は、企業内人材開発や若年者向け就職支援の事業に携わる。2006年にGCDF-Japanキャリアカウンセラー、2011年に国家検定・2級キャリア・コンサルティング技能士の資格を取得し、2011年より現職。

インタビュー対象者:三浦様

三浦様のご経歴と現在ご担当されている業務についてお聞かせください。

私は、一橋大学大学院の社会学研究科修士課程を2002年に出た後に、新卒でリクルートという会社で働いていました。リクルートという会社は中国では知られていないかもしれないですが、日本では人材ビジネスの最大手です。そこで企業内人材開発や若者の就職支援の仕事をしていました。2009年に退職し、出産・育児のために2年間休職したのですが、2011年に一橋大学キャリア支援室の中に大学院部門ができたときに現在の仕事に就きました。今は、主に院生のキャリア支援を担当していて、留学生の支援もしています。この仕事に就くまで留学生のキャリア支援の経験はなかったのですが、大学院生の中でも就職活動に特に困っているのは留学生なので、留学生支援に注力するようになりました。

なぜ一橋大学でキャリア支援の仕事をすることにしたのでしょうか?

実は私、大学院在学中は、労働や雇用に関する問題を研究テーマとしていました。日本企業での働き方に問題意識をもっていて、サービス残業などプライベートを犠牲にするような働き方は望ましい働き方ではないと思っています。そのような働き方でも高度経済成長の時代は経営者と従業員にWIN-WINの関係が成り立つ面もありましたが、経済成長の停滞期になると、従業員側の不利益が大きくなってきたと思います。そのような状況の中で、人材ビジネスの仕事をしているときは、経営者側のメリットや考えを尊重しながら、どうすれば経営者と従業員のWIN-WINを実現できるのかという視点を重視してきました。しかし、それと同時に、個人への直接的な支援に強い関心をもっていることに気づき、GCDF-Japanキャリアカウンセラーやキャリア・コンサルティング技能士の資格を取得しました。そして、自分自身が大学院修了者として企業に就職した経験を後輩たちのために活かしたいという思いもあって、学生の就職支援に携わることにしました。

一橋大学の中国人留学生

一橋大学の中国人留学生の状況はいかがでしょうか?

2014年5月現在、一橋大学には外国人留学生が学部に254名、大学院に473名、合計727名在籍しています。一橋大学全体の学生数は、学部が4456名、大学院が1926人なので、それぞれの留学生の割合は、学部で5.7%、大学院で24.6%と大学院の外国人留学生の比率が多いですね。国籍としてはアジアが634名と圧倒的多数ですが、合計約50カ国から留学生が集まっており、非常に国際的です。その中でも中国人留学生は、学部に43名、大学院に244名在籍しており、大学院では半数が中国からの学生ということになります。

一橋大学の留学生の特徴はずばり何でしょうか?

非常に難しい質問なのですが、一つだけ挙げるとすれば、「日本で就職したいと思って入学している」ということです。中国の人からは、「早稲田と東大は中国でとても有名だけど、一橋は全然知られていない」と聞きます。日本で修士号をとって中国に戻って就職するなら早稲田が有利のようですよね。ただ、早稲田には中国の留学生が非常に多くて、コミュニケーションのほとんどが中国人同士になってしまうようです。一橋でも中国人が多いとは言え、ゼミナールに入ると日本人のほうが多いので、日本語のネイティブスピーカーと議論することで日本語能力が鍛えられます。国立大学で学費が安く、日本語能力を高められる環境があり、さらに社会科学系の一流の教授陣もいるので、日本で就職したい留学生から選ばれているんだと思います。

キャリア支援室

キャリア支援室の学生に対する具体的な支援内容を教えてください。

大きく分けて3つです。1つ目は個別相談で、アドバイザーと学生が1対1で1時間くらい面談をするものです。ひとりひとりの悩みや課題についてアドバイザーが相談に乗ります。2つ目はイベントの開催です。イベントにはさまざまな種類があり、内定者座談会、エントリーシートの書き方講座、一橋のOB・OGとの座談会、業界研究講座、会社説明会など、幅広い内容です。その中でも会社説明会についてですが、今年度は2015年の3月に開催予定で500社以上の企業が大学キャンパスまで来てくださいます。枠を超えて参加のご要望をいただいており、やむをえなくお断りするほどです。企業にお願いして来てもらう大学もあると聞くので、会社説明会の実施は一橋の強みだと思います。3つ目は冊子の発行です。個別相談やイベントは利用できる時間が限られるので、自分で都合の良い時間に使えるように、『就職ハンドブック』や内定を得た人たちの『就職活動体験記』を制作しています。『就職活動体験記』は学部生版と大学院生版を発行しているのですが、大学院生版では毎年、留学生にも数人に寄稿してもらっています。ちなみに、イベントと『就職ハンドブック』は、留学生だけに特化したものもあります。これら3つ以外には、OB・OG名簿の提供やインターンシップも含めた求人情報の紹介もしています。さらに留学生には、日本語の会話力向上プログラムも提供しています。これは、定年退職した一橋の卒業生などのボランティアの方々が、企業で使われる日本語を留学生に1対1で教えてくださるものです。今年度は22名のボランティアの方にご協力いただいていて、35名の留学生が利用しています。

大学と企業の連携について、一橋大学ならではの取り組みはありますか?

一橋には、学部生の正課の授業に「インターンシップ」など、キャリア関連の授業が多数あります。授業の「インターンシップ」では書類選考がありません。留学生の場合、1社でも日本企業の職場・仕事を経験することが大切なので、この授業を勧めています。大学院生は残念ながら単位になりませんが、参加は可能です。そのほか、さまざまなテーマで企業やOB・OGの方々に講演をしていただく授業が複数あります。その中でも、2014年度からは学部留学生向けに「日本企業・就職事情」という授業を開講しました。日本の新卒一括採用とその問題への理解を深めることを目的とした授業なのですが、企業の採用担当者や元留学生のOB・OGもゲストスピーカーとしてお招きしました。

さらに、企業の方に学生をスカウトしてもらうというプログラムも一橋大学独自で行っています。2015年卒の場合、2014年4月に大手企業の内定が一気に出たのですが、5月以降になると求人の数も限られてきます。そこで、就職活動を継続している学生のうちの希望者について、強みや経験、担当したアドバイザーの推薦文を加えて(個人情報は除いて)、企業に週1回ご紹介しました。企業から「この学生の応募は受け付けてもいい」という返事が来たら、キャリア支援室がその学生に企業への連絡方法を伝え、その後は本人が企業に連絡をするという流れです。留学生で登録した人は10数人いましたね。

これまで支援をしてきた中で印象的だった留学生はいますか?

去年、3社から内定をもらい、どこに入社するか悩んでいた中国出身の大学院留学生がいました。一番行きたい会社は本人の中で実は決まっていたんですけど、その会社の業績は低迷していたので、まわりから「その会社に行ってはダメ」と反対されていたんです。でも、その留学生はその会社の人たちと会って、「この人たちであれば業績を回復させる力を持っているし、自分も一員となって貢献したい」と思っていました。まわりからとても反対されているけど自分の選択は正しいのか、と迷っていたんです。それに対して、私は「その会社に行きなさい」とは言いませんでした。「自分がなにを大事にしたいのか」や「こんな人からこういう情報を集めた上で、自分にとって悔いの残らない選択をしてほしい」と話しました。最終的にその留学生は、自分の第一志望だった会社に行くことを決めました。悩みは人それぞれですが、困ったときには学生の力になりたいと私たちは本気で思っています。誰にも相談できずに困っている人には、ぜひキャリア支援室に来てほしいですね。

日本企業と外国人留学生

日本企業と外国人留学生に関して、近年の就職環境に変化や傾向はありますか?

留学生を積極採用したいという企業が増えているのは間違いないです。一橋では2011年から毎年、企業の採用担当者と留学生とが交流するイベントを年に1回開催しています。当初はこちらから積極的に企業を呼び込んで、1ヶ月以上かかってようやく8社を集めました。ですが、今年は企業に一斉に案内したら、数日で20社からお申し込みがありました。ただし、企業の方々から「日本語や日本企業の文化の面で壁があり、入社した人たちを十分に活用しきれていない」という声も聞いています。急に留学生の採用数を増やしてしまうとしっかり育成できなくなるので、少人数に絞って採用しようとする企業は多いです。つまり、企業は量よりも質を重視して留学生採用を行っているということですね。

企業にとって日本人と留学生に違いはあるのでしょうか?

大手企業については、「ない」というのが私なりの回答です。中小企業ではビジネス上で必要な国・地域の人を採りますが、大手の場合は「国籍を問わず優秀な人を採りたい」という企業が多いんです。なので、中国の人を採用したからと言って、中国でのビジネスに関する仕事を任せるわけではないんです。日本人以上に中国語や英語を使う機会はあるようですが、日本人と同じように配属され、日常的には日本語で仕事をしているのが現状です。なので、「阿吽の呼吸とか、日本ならではのコミュニケーションが難しい」という声をOB・OGから聞いています。企業も「日本人化した外国人」を採用したいわけではないのですが、外国人の育成やマネジメントの態勢を整えている時期なんだと思います。

留学生が陥りがちな失敗や注意点はありますか?

日本の就職活動の特徴を理解することですね。入社の1年以上前から始まる採用活動のスケジュール、ポテンシャルという数値化も客観化もしにくい選考基準、「ジェネラリスト」としての総合職採用、部署配属は採用段階で未定といった点が特徴的です。特にポテンシャルという選考基準はみなさんに理解しにくいものだと思います。中国の人たちの多くは、語学力や専門知識をアピールしますが、それそのものをアピールしても日本企業には評価されません。日本企業の多くは、「企業理念を継承できる」ことが新卒採用のメリットだと捉えています。そのため、採用の究極的な決め手は「この人と一緒に働きたいか」と言われるように、「当社と合うか」を企業は重視しているのです。同じ業界でもライバル同士で社風や価値観が違うので、留学生から見ても、合う企業と合わない企業があります。どれだけ能力がある人でも、「うちのチームに合わない人なら、よりよいチームワークが発揮できないので採用しない」というのが企業の考え方なのです。日本企業から内定を獲得した中国人留学生はみんな、「『ご縁』という意味がよくわかりました」と言いますね。でも、就職活動中には理解できなくて、面接で落ちてしまうと、「ちゃんとアピールして、面接官の反応もよかったのになぜ?」と困惑する人が多いんです。

そのほか、留学生の就職活動での注意点はありますか?

日本企業は「若い方が成長可能性が高い」と捉える、ということです。中国では修士号を取らないと就職は厳しい状況だと聞きますが、日本ではその逆で、学部卒で十分なんです。例えば、中国の大学を卒業後、日本で語学学校に通ってから大学院に進学すると、就職する頃には25歳を過ぎてしまう人が多いですが、25歳以上だと就職状況はかなり厳しくなります。日本で就職したい場合は、日本の就職事情をきちんと知ったうえで、できるだけ早く留学の準備をしてほしいと思います。ちなみに、中国の大学卒業後、数年働いてから日本の大学院に進学する人も多くいますが、日本の中途採用市場はさらに厳しいことに注意してほしいです。大手企業の場合、新卒の方が採用枠は多く、日本での職務経験がない留学生は新卒枠で受けられる企業もあります。なので、各企業に確認して、できるだけ新卒で受けた方がいいよと留学生には勧めています。ちなみに、留学生採用に積極的な企業86社に「出身国での職歴がある場合、新卒で応募することも可能ですか」という質問をしたところ、「不可」という企業は4割もありましたが、「3年以内なら可」という企業が3割ほどありました。なので、新卒で応募可能な企業を探すことも大変だということには注意してほしいですね。

メッセージ

最後に、読者のみなさんに伝えたいことをお願いします。

あえて厳しいことをお伝えすると、中国人留学生は競争率が非常に高いんです。例えば、ある大手電機メーカーでは技術系職種以外の内定者が100名ほどいるのですが、そのうち外国人留学生は10名いて、中国人は2名だと聞きました。日本にいる外国人留学生の約半数が中国の人ですから、他の国の人たちよりも競争率が高いことがわかりますよね。そんな状況ですが、一橋大学にはみなさんのキャリアを支援する体制が整っています。「一橋ほど、留学生に特化した支援に注力している大学はない」と他の大学の人が言っているほどです。留学生に特化した就職支援はおそらく日本で最も充実しているので、その点では安心してきてほしいと思っています。みなさんのキャリアがよい方向に向かうことを願っています。

戻る
一橋大学の情報コーナー

TOP